お知らせ

「けせん福幸コンサート」その1

2015.1.26

いわて生活協同組合の気仙地区組織「けせんコープ」のお招きを受け、陸前高田と大船渡の2か所で「けせん福幸コンサート」を開催しました。けせんコープの委員さんたちは仮設住宅に訪問して食事会やサロンを季節ごとに行うなど、さまざまな形で支援活動を継続しています。今回は初めての試みとして、クラシック音楽のコンサートを開くことにしたそうです。
IMG_4312-最初の会場となったのは陸前高田キャピタルホテル1000にある大広間です。このホテル自体も被災し、高台に新築再開してようやく1年と少しが経ちました。
周辺は見渡す限り土地造成工事現場がひろがっていて、ダンプカーやトラックが頻繁に行き交い、ショベルカーが忙しそうに立ち働いている姿が見えます。IMG_4315-
津波で破壊された建物がその当時のままに残る傍らには、山から土を運ぶらしき巨大なパイプラインが縦横に張り巡らされ、なんだかSF的な光景です。
けせんコープの委員さんの話によれば、この周辺は人が集まれるような施設がすべて津波で失われてしまい、文化・芸術的な催し物がずっとできない状況にあったそうです。それに加えて、普段は出掛ける先もなく、鬱々と仮設住宅等で暮らしている方も多いのだそうです。委員さんたちは、このホテルが再建されてようやく集まれる場所ができたので、たまにはおしゃれして優雅な時間を過ごさせてあげたい、日常の嫌なことや辛いことを一瞬忘れるハレの時間をプレゼントしたいと考えて、このコンサートを企画したのです。そう語る委員さんたちもこの地域で被災した方々です。その体験があるからこその企画でした。
IMG_4373-会場には円卓が並べられ、まるで披露宴でも始まるかのようです。霧雨降るあいにくの天候でしたが、予想を超えて67名の方が集まりました。
本日の出演は仙台フィルハーモニー管弦楽団による木管五重奏(フルート芦澤曉男さん、オーボエ西沢澄博さん、クラリネット副島謙二さん、ホルン須田一之さん、ファゴット海野隆次さん)です。
オープニングはハイドン「ディヴェルティメント」全楽章です。木管のやさしい音色がよく響き、温かいハーモニーとなって観客の全身を包むようでした。クラシック音楽は敷居が高いと敬遠されることもしばしばあるのですが、進行役の西沢さんによる親しみやすく楽しい解説が会場の皆さんをごく自然にクラシック音楽の世界へいざなって行きました。
IMG_8434-メンバーそれぞれが楽器紹介をするときに、芦澤さんは「フルートの音の出るしくみはこれと一緒です」と栄養ドリンクの瓶を取り出しました。中身を少しずつ飲みながら瓶の口を吹くとちがう音がします。みなさん「ほお〜」と感心しながら笑っています。最後の一気飲みと空瓶で演奏した「ラヴミーテンダー」には大きな拍手が起こりました。
コンサートの中盤ではちょっと趣きを変えて、日本の歌謡曲をいくつか演奏しました。陸前高田が生んだ大スターと言えば千昌夫です。みなさんと一緒に「北国の春」を歌いました。実はこの曲、管楽器で演奏するとロングトーン続きで息を持たせるのがなかなか大変なのです。三番まで演奏しきったとき、ステージ上の5人はへとへとになっていましたが、同時にみなさんの歌声と笑顔にまた新たな元気をもらっていた様子でした。「さすが本場はちがいますねえ!」と西沢さんが言うと、「あははは」と嬉しそうな笑い声が起こりました。IMG_4358-
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アンコールは主催者からのリクエストにお応えして「花は咲く」を演奏しました。最前列に座っていたおばさまも「聴きたかったのー!」と感激していました。一緒に歌えるようにと歌詞カードを配りました。それを見ながら楽しそうに歌う人、涙を流しながら歌う人、涙で歌えなくなる人、歌わずにじっと聴く人などさまざまな姿がありました。ささやくような静かな歌声が木管の調べと混ざって会場を満たしました。
IMG_8481-終演後、会場を出る人たちは、とても明るく満足そうな表情をしていました。或るアンケートには「生きてて良かった」と書かれていました。

委員さんたちからは「『花は咲く』の歌詞を改めて読んだら、つらくてとても歌えなかった」「私もいろいろ思い出して泣いてしまった」「私も辛かった。でも、亡くなった何人もの友人のことを思って、《生きていかなきゃ》《今、やらなきゃ》って思った」とのお話しがありました。それをうかがっていて、一つの歌が人それぞれに震災という経験と改めて向き合う時間をいま生んでいるのだ、ということを感じました。
また別の委員さんは「近所の高田高校にある仮設住宅から歩いてきたおばあちゃんがいて、この雨の中、工事現場のぬかるみのなかを帰っていくのね。その姿をみたら泣けて泣けて仕方なかった。でも、そうやって来てもらえてよかった。このコンサートをやって良かったって本当に思います」と言いました。
そうやって、誰かが誰かを思いやること、そのときに音楽がお役に立てるなら、私たちも本当にさいわいです。

名残惜しいですが、会場をあわただしくおいとまし、続いては大船渡リアスホールへと向かいます。(み)