お知らせ
【文化庁派遣事業】宮城県立視覚支援学校へ
- 2015.2.12
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音楽の力による復興センター・東北は、
平成26年度文化庁芸術家派遣事業〔東日本大震災復興支援対応〕の
音楽プログラムをコーディネートしています。2月にしてはめずらしく暖かな日となりました。いつもは寒さでぎゅうっとちぢこまっている体も、ふっと力が抜けてなんだか気分も軽やかです。
今日は宮城県立視覚支援学校へピアノとフルートのアンサンブルをお届けにうかがいました。出演はフルート渡邉珠希さんと櫻井希さん、ピアノ門脇麻美さんのトリオです。
会場には小学部から高等部までの児童生徒10名と先生方、そして保護者の方も集まりました。この学校には視覚障害を持つ子供たちが通うわけですが、全盲から弱視まで障害の程度はそれぞれで、また、視覚だけでなく身体・知的障害を重複して持つ生徒もいます。先生方は生徒とほぼ1対1のつきっきりで指導にあたっています。先生の話では、感覚の鋭い子供が多く、日ごろから音楽が大好きなのだそうです。
エルガー「愛の挨拶」やケーラー「花のワルツ」のやさしく柔らかな旋律に、子供も大人も体を揺らして聴き入る姿が多くありました。聴く人の表情もやわらかくなっています。
手をたたいたり、踊ったり、くちびるを震わせて音を出したりと生徒の反応は本当にさまざまです。その脇にぴったり寄り添う先生方はいつもとちがう子供たちの様子におどろいたり微笑んだりしていました。
今日、珠希さんは特別なプログラムを用意していました。「みなさんにもフルートを体験していただこうと思います」と取り出したのは、たくさんの小瓶です。清涼飲料水や栄養ドリンクなどの空き瓶に水を入れて、ドからラまで調音したものを客席の希望者に手渡しました。フルートの音を出すしくみは、瓶の口を吹いて音を出すのと同じなのだそうです。珠希さんと希さんが席をまわって何回か練習しました。最初吹けなかった子も少し音が出るようになって、なかなか良い調子です。
「では、合図をするので、ゆっくり鳴らしてくださいね」と「エーデルワイス」の演奏が始まりました。合図に合わせて一人ずつ音を出してゆきます。たった一音だけでも曲に調和して一緒になると楽しいものですね。フルートとピアノの音に「ほぉぉぉぉ」と素朴で温かい音がまざって、会場の空気もみんなの気持ちもがあたたまるようでした。
続いては、中等部の生徒によるリコーダー演奏と唱歌の「故郷」を共演しました。たったひとりで緊張したかもしれませんが、彼の一所懸命な演奏を先生も保護者の方も微笑みながら見守っていました。終わって照れくさそうにしていた彼は席に戻ると「はああ」と大きなため息をついて、会場は笑いに包まれました。
「次は、初めて聴く曲かもしれませんが…」と紹介したのはドップラーの「アンダンテとロンド」。ゆったりした前半と軽やかで弾むような後半のコントラストが楽しく、フルートの魅力をたっぷりと披露しました。普段聞いたことのない曲でも、演奏家の息づかいが直接感じられるような距離で聴いてみるとまた別の味わい方がありますね。音楽との新しい出会いを提供するのもこうした訪問コンサートの一つの役割なのでしょう。
最後に視覚支援学校の校歌を演奏に合わせてみんなで歌い、元気いっぱいな歌声が会場に響きました。生徒代表からお礼の言葉と小さなプレゼントが贈られました。
終演後、校長先生が言いました。「日頃、お子さんを育てるのに必死な保護者の方々に、こうして音楽を楽しんでいただける時間を持てたことは非常に有り難いことです」この事業がお役に立てるのは演奏家も事務局もうれしいことです。さて、復興センターが担当する文化庁芸術家派遣事業〔東日本大震災復興支援対応〕の今年度分は今日で最後の実施となりました。
昨年9月から2月まで半年にわたるこの事業を無事に終えることができたのは、演奏家のみなさんの情熱と施設の方々の協力があってこそのことでした。この場を借りて御礼申し上げます。どうもありがとうございます。音楽との出会い、演奏家との出会いが子供たちの生きる力をはぐくむ一つのきっかけになればさいわいです。
東北も春はもうすぐです。