お知らせ

名取市「めぐりあいのコンサート」へ

2015.5.4

IMG_1371s仙台市の南隣にある名取市、そのほぼ中央に名取市文化会館はあります。震災後は1,000人を超える被災者を受け入れ、約3か月のあいだ避難所として機能していました。2011年4月に仙台フィルのヴァイオリン神谷未穂さんと山本高史さん、ヴィオラ長谷川基さん、チェロ原田哲男さん(現九州交響楽団)の4名がその避難所を訪れ、復興コンサートを行ないました。

あれから4年の月日が経ちました。このゴールデンウィークには会館主催事業「Art for Kids@なとり わくわくパビリオン」が行なわれています。その中の一企画として今日は「めぐりあいのコンサート」をお届けして来ました。時がめぐり、音楽のもとに名取の人びとと演奏家たちが再び出会うことを願ってつけたタイトルです。
出演するのはあの日と同じく神谷さん、山本さん、長谷川さん、そして原田さんに代わって仙台フィル若手ホープのチェロ吉岡知広さんです。
リハーサルのときにメンバーは「あの時はこの壁が落ちててね」「ここは救援物資が積まれていたなあ」「あそこは布団がいっぱいだったね」と当時のことを話していました。記録カメラマンの大峡さんもやはり4年前にここを訪れていて、「今からは想像できないけど、凄い雰囲気だったよ。シャッター切れなかった」と言いました。

IMG_1195s初夏のまばゆい陽光の中に鯉のぼりが悠々と泳ぐこの美しい日に、赤ちゃんからお年寄りまでおよそ120名の方が集まりました。IMG_1244s
4年前はトレーナー姿で演奏したメンバーでしたが、今日の男性はスーツで、紅一点の神谷さんは深紅のあでやかなドレスで登場しました。

まずはモーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」第一楽章で華麗に幕開け。その後はメンバー交代で進行のマイクを持ち、曲の説明をしながらクライスラー、アンダーソンの数曲を演奏しました。IMG_1217s
元気が出るような、明るく楽しいプログラムが続きます。ある小さな女の子が(バレエを習っている子なのでしょうね)お母さんに抱っこされながら座席で楽しそうに踊っていました。ある男の子は右手にえんぴつを持って、ヴァイオリンを弾く真似をしながらうっとりと見入っていました。
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『踊る仔猫』では演奏家が「わん、わんわんわんっ!」と犬の真似をすると客席から笑いに包まれました。ある時は、思わず「ママー!」と客席から呼び掛けた息子さんに神谷さんが手を振って、とてもほのぼのしたアットホームな雰囲気の演奏会でした。その一方で、演奏家同士の丁々発止のやりとりや見事な技巧、汗が飛び散る力強さと羽毛のような繊細さも堪能できる、クラシック音楽ファンも魅了する内容となりました。 IMG_1254sIMG_1248s

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最後の曲を紹介するとき、神谷さんが言いました。
「あの時、《みんなが元気になりますように、そしてみんなの祈りが空に届きますように》と思ってこの曲を演奏しました。私たちがずっと大事にしている曲です」
そうして、『世界に一つだけの花』、『星に願いを』、『故郷』が演奏されました。
最後の一音が鳴り終わってもお客さんは息を詰めてじいっと聴いていました。弓が弦からそっと離れ、演奏家がほぅ、と息をついた瞬間に、大きな拍手が沸きました。IMG_1333s
観客と演奏家が呼吸を一つにして、この時この場に、ともに居ること。それは小さな奇跡なのかもしれません。
IMG_1342s終演後は演奏家がロビーに出て、お客さんのお見送りをしました。子供たちはちょっと恥ずかしそうな笑顔で、大人たちは満足そうな晴れ晴れとした笑顔を見せていました。
或る方が「避難所の時、演奏を聴きました」と演奏家に話しかけ、双方とも胸いっぱいになっていた場面もありました。

もう4年、まだ4年。時間の感じ方は人それぞれです。
ここ名取市にもまだ多くの仮設住宅があります。一方で、客席にいたあの小さな子たちは震災を知らない世代です。IMG_1334s
過去と現在と未来、それぞれに対して(あるいはつなぐものとして)音楽は何かできるのではないだろうか、その思いを抱きつつ、これからも復興コンサートを続けていきます。