お知らせ
グリーンタウンやもと仮設住宅へ
- 2015.6.5
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仙台駅からJR仙石線でおよそ1時間、東松島市の矢本駅を目指しました。車窓から見える風景は文字通りに風光明媚。海は凪ぎ、山並みが遠くに霞み、雲を映す水田には青々とした苗が風に揺れています。おだやかな光景に見とれていると、その中にふと、隙間だらけの松林やぐにゃぐにゃと曲がったままのガードレールが見えて現実に引き戻されます。
矢本駅から5㎞ほど入った山あいにグリーンタウンやもと仮設住宅があります。第一から第三までの住宅群があり、当初は600世帯、約1600人が生活していた市内最大級の仮設住宅です。現在は転出が進み、住民の数はだいぶ減ってきているそうです。
今日は第一仮設住宅のひまわり集会所にうかがいました。この集会所では、住民および転出した人たちが交流するサロン活動がさまざまに行われてきました。「だいぶ引っ越しして行っちゃったからね、集まる人もだいぶ少なくなってるの」と集会所の管理人さんが言いました。それでも常連さんが何人か顔を出して、「これ、毎朝の恒例行事なの」とマッサージチェアに座っておしゃべりに興じていました。
さて、本日の出演はソプラノ齋藤翠さん、フルート山田みづほさん、チェロ明珍幸希さん、ピアノ掛田瑶子さんです。タイトルは「きらめく初夏のコンサート」と銘打ちました。
会場にはおよそ15名の方が集まりました。 最初は緊張していたお客さんも翠さんの出身がここの近くと言う話に「あら!」と一気に親近感が湧いたようでした。
なつかしい日本の唱歌や民謡を中心としたプログラムだったので、「よろしければどうぞ歌ってください」と集会所に常備されている歌本も配られました。そっと口ずさむ方、手やつま先で拍子を取る方、じっと見つめる方など、それぞれに演奏を楽しんでいました。
なかでも山田さんのピッコロによる『竹田の子守唄』は、祭り囃子の篠笛を思わせる音色で、多くの人が目を閉じて聴き入っていました。
翠さんが「歌うときのコツは口を縦長に開けることです」と言うと、みなさんさっそく実践して、とくにロシア民謡の『ともしび』『カチューシャ』では「待ってました」とばかりに歌うおばさまがいて、なんだか会場の温度が少し上がったような気がしました。
盛大なアンコールの声をいただいて、『川の流れのように』が演奏されると、堰を切ったように泣き始めた方がいました。何かを思い出したのでしょうか、とめどなく流れる涙をハンカチで押さえるのに精いっぱいの様子でした。片づけが終わり、演奏者も帰った後で、管理人さんとご近所の若いお母さんから震災当時のことや現在のことなど、お話しを伺いました。津波のしぶきを被りながら命からがら逃げた様子など、臨場感あふれる語りぶりでした。話しているとき、きっとその時の様子が体の中で再現されているのでしょう、目からは涙がこぼれそうになっていました。4年経っても記憶は生々しく息づいているのです。本当にささやかな偶然が重なってで生き延びることができたのです。一瞬の判断が生死を分け、また生き残ったことすら手放しでは喜べない複雑な状況がそこにはありました。どんなにか怖かったろう、つらかったろうと、聴いている私たちの方も胸がつぶれる思いでした。
じつは、管理人さんはご自身の引っ越しを数日後に控え、今日は荷物の積み出し作業の手を止めてコンサートの手配をしてくださっていたのです。このご協力があってこの復興コンサートが実現できました。心より感謝申し上げます。「移転先で落ち着いたら、またお声掛けくださいね。演奏会を届けに行きます」とお伝えして別れました。