お知らせ
「夏のおわりの童謡ライブ」 開催しました
- 2015.9.5
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石巻市雄勝町は津波で壊滅的な被害があった地域です。中心市街地の雄勝地区では約630世帯のうち9割以上が全壊流出、人口およそ4300人のうち3000人が被災し、100名近い方が亡くなりました。山が海岸線に迫る典型的なリアス式海岸のため、仮設住宅を建てようにも適切な平地がほとんどなく、かつての住民は、あちこちに点在する仮設住宅にばらばらに分かれて生活しているそうです。すべての公共施設が失われたため、人びとが集まれる場所もなくなりました。
分散してしまったコミュニティの再生を願って、このまちの人びとが集える拠点となるよう建設されたのが「雄勝オーリンクハウス」です。NPO法人雄勝まちづくり協会が運営する民営公民館として、会議やお茶のみ、上映会や展覧会、各種サークル活動などさまざまな文化活動が行なわれています。
今回は「夏のおわりの童謡ライブ」にお招きいただきました。このイベントはこれまで数回開催されているということです。童謡は親しみやすいだけでなく、世代を超えて受け継がれてきたものです。お年寄りから子どもまで、たくさんの人を結び、つなぐものとしてオーリンクハウスでは大切に思っているとのことです。
さて、今日はタイトル通りに夏のおわりを感じさせる柔らかな暑さと澄んだ青空の土曜日となりました。会場の窓からは鏡のように穏やかな雄勝湾がきらきらと輝いて見えます。緑なす山並みと相まって、見とれてしまうほどの景色です。通りのところどころには「日本一美しい漁村」と書いた幟がはためいていて、本当にその通りだなぁと素直に頷けました。併設のカフェには地域の人や観光客が三々五々訪れ、スタッフと言葉を交わしています。ここが地域の拠点として根付いていることが感じられました。
今回の出演はソプラノ千石史子さん、ヴァイオリン佐藤実治さん、ピアノ及川久美子さんのトリオです。会場に一歩踏み入れた途端、「わあ、すてきですねえ」と演奏家のみなさんはごきげんな様子。入念なリハーサルを経て、いよいよ開演となりました。会場には30名弱の参加者が集まりました。最前列が恥ずかしいらしく、遠慮して後ろや端の席に陣取っています。でも、どこかしらうきうきした様子で、この会を楽しみにしていらしたことが伺えました。
最初に数曲を鑑賞していただきました。まず、千石さんと及川さんのデュオでカッチーニ『アヴェ・マリア』、続いて佐藤さんが加わりハイドン『私を泣かせてください』が演奏されると、観客のみなさんは切々とした調べと歌声にすっと惹き付けられていました。何かを思い出したのか、ほろほろと落涙する方もいました。
『チャルダッシュ』では目の前で繰り広げられる技巧にみなさん目をみはり、手拍子でノリノリです。弾き終えた瞬間にやんやの大喝采が沸きました。
その後、お待ちかねの歌うコーナーとなりました。『赤とんぼ』『紅葉』などの文部省唱歌を歌うと、「学校にいたときを思い出すねえ」という声が聞こえました。姿勢を正して歌う方、拍子を取りながら歌う方、子供をあやすように体を揺らして歌う方、とみなさんそれぞれに歌を楽しんでいる様子です。『ドレミの歌』など少し新しめ?の曲も歌いました。唱歌のしみじみする感じとはまたちがって、ぱあっと元気になるような弾み感が楽しかったです。
また、トークの中で演奏家が宮城県出身とわかると「あらぁそうなの」といっそう親しみを覚えてくださり、親戚のおじさんおばさんに見守られているような温かな雰囲気でコンサートは進みました。
『故郷』『花は咲く』を歌うときは涙を拭う方が多くありました。実は、この2曲を選ぶことについて演奏家にも躊躇があり、事前に主催者とも相談をしました。
いま涙をふきながらも歌うことをやめない姿を見て、つらい現実を受けとめつつ、でも前を向いて行こうというこの町の人たちの気概を感じました。みなさんの熱い歌声と拍手に包まれて、童謡ライブは終演となりました。お客さんのお見送りでは、演奏家に握手を求める方、「良かったよ!」と声を掛ける方、満面の笑顔を見せる方などいらしてみなさんなかなか去りがたい様子でした。
コンサートの最中にも目の前の山はどんどん削られていて、むき出しの赤土の急な傾斜をダンプカーがしきりと行き交っていました。
高台移転へ向けた宅地造成工事が進んでいますが、完成するのは3年後だろうとのことです。スタッフさんが「本当にまだまだなんですよ」と言いました。
どうかそれまで(それ以降も)このオーリンクハウスが地域の人びとを結び、支える寄る辺でありますようにと思いました。復興コンサートの活動もそれまで、いえ、それ以降も続けていきたいと思います。それぞれの土地で、がんばっていきましょう!
今回の機会をくださったオーリンクハウスのスタッフの皆様と秋山喜弘さんに感謝申し上げます。ありがとうございました。