お知らせ

「花は咲く」合唱団_蒲生町内会解散式へ

2016.1.17

仙台市「音楽の力による震災復興支援事業」
宮城野区被災者交流支援事業
≪みやぎの「花は咲く」合唱団≫
宮城野区の仮設住宅、復興公営住宅、防災移転地区、または津波被災地域に
お住まいのおおむね60歳以上の方々と、毎月1回合唱の練習をしています。

仙台市沿岸部にあった蒲生地区は津波による大きな被害があり、多くの住民が移転を余儀なくされ、戻れないままになってしまいました。東日本大震災から4年10か月を経て、蒲生町内会はこのたび解散することになりました。最後の町内会総会とお別れの会が行われる今日は、奇しくも阪神淡路大震災から21年目の日です。多くの人の胸にさまざまな思いが去来していることでしょう。
会場の高砂市民センター多目的ホールにはおよそ100名の蒲生の方が集まりました。合唱団メンバーの中にも蒲生出身の方が数名いらっしゃいます。今日は役員として忙しく立ち働いている方もいました。避難で散り散りになってしまったため、久しぶりに顔を合わせる人々もいるのでしょう、あちこちで再会を喜んでいる人たちの姿がありました。
20160117_4コンサートは、ずっと合唱団を指導してきた仙台オペラ協会の齋藤翠さんの独唱から始まりました。この時季らしい『早春賦』、爛漫たる春を想っての『さくらさくら』、そして『大空と大地の中で』が演奏されました。DSC_0531
目を閉じて歌声にじいっと聴き入る人や、歌詞をまるで自分に刻み込むかのようにうなずきながら聴く人の姿がありました。かつての蒲生には水鳥の憩いの場所だった干潟や、広々とした田園地帯がありました。「果てしない大空と広い大地のその中で いつの日か幸せを自分の腕でつかむよう」との歌詞に、故郷の風景を思い出した人も多いのではないでしょうか。目頭を押さえていた人もいらっしゃいました。

DSC_0534続いて、目々澤亜紀さんがピアノソロで『メモリー』を演奏しました。亜紀さんは折りにふれて蒲生に遊びに来ていたそうです。子供の頃にお父さんと釣りに行ったこと、大人になってからは息抜きに海を見に来たことなどの思い出を語りました。20160117_7
改めて、失われてしまったものの大きさと、色褪せることのない記憶の大切さを感じました。ここにいる人みなさんの中にそれぞれの記憶があると思うと、とてもせつなくなりました。

DSC_0547さて、いよいよみやぎの「花は咲く」合唱団の登場です。地元の同じ町内会という身近な人たちの前で歌うことでいっそう緊張した人もいたかもしれませんね。ステージに並んだ面々を見て、客席からは「あ、○○さんがいるよ」「あれ、△△さんの奥さんじゃない?」「あらぁ◇◇さんって歌うんだ!」とおどろきを含んだささやき声が聞えました。DSC_0537
『知床旅情』『カチューシャ』『家路』『花は咲く』の4曲を演奏しました。広い会場で声量が足りるかと心配されましたが、低音と高音のハーモニーが最後列まできちんと聞こえてきてほっとしました。
DSC_0554『カチューシャ』では客席から手拍子が湧き、合唱団は応援されているようで嬉しそうでした。歌声と手拍子のやりとりで会場は俄然活気づいてきました。自分の知り合いが歌っているというためか、お客さんも一所懸命に聴こうとしている様子で、会場の空気に温かさと集中が生まれていたように感じました。ここにいる全員が、同じあの体験をくぐり抜けてきたという同士のような感覚があったと思います。そして、ご近所づきあいで見知っているのとはまた別の一面が見えたのではないでしょうか。DSC_0556
歌い終わったときには、大きな拍手が沸き、「アンコール!」の大きな掛け声があちこちから飛びました。合唱団のみなさんは堂々としていて、表情が輝いてみえました。

コンサートが終わって、町内会の役員さんから「このコンサートをやって本当によかった」「もっと聴きたかったよ」とのお言葉をいただきました。とても感激した様子がその方の全身にあふれていて、その言葉には社交辞令でない熱を感じました。うれしいですねえ。
DSC_0558コンサートの打ち上げがわりに合唱団メンバーでささやかなお茶会を開きました。一人ひとりに感想を求めると、ある人は嬉しそうに、ある人は恥ずかしそうに、ある人は涙にくれつつ、それぞれに一言くださいました。
「避難した後から会えなくなっていた人に、今日会えました」
「亡くした夫のことを思い、今日こそは泣かないようにと思って、頑張りました」
「死んだ息子の分も長生きしようと思います」
「歌っている時だけはすべてを忘れて打ち込むことができました」
「みんなと歌えて本当にうれしかった。ありがとうございます」

DSC_0544大袈裟な話でなく、歌うことを生きる支えにしてきた人がこの合唱団にはたくさんいます。自分を支えてきた《歌》で今回は別の誰かを励ますことができたということに、とても感慨深いものがあります。これも一つの大きな節目と言えるでしょう。
「花は咲く」合唱団はまた来月も本番があります。今日の経験を糧にして、さらに歌に磨きをかけていきましょう!