お知らせ

はじまりの場所で ~見瑞寺コンサート~

2016.3.11

仙台フィルハーモニー管弦楽団と日本音楽家ユニオン東北地方本部ユニオン仙台フィル、そして音楽の力による復興センター・東北の三者主催による「東日本大震災追悼 見瑞寺コンサート」を開催しました。
最初の復興コンサートがおこなわれたのは2011年3月26日、仙台駅にほど近い宮城野区榴岡の見瑞寺(けんずいじ)の境内にあるダンススタジオでのことです。まだライフラインも復旧していなかった頃でした。
あれから5年、今あらためて追悼の意を表し、音楽の力を通じて人びとの心の復興に寄与していく決意をもって、この思い出の場所でコンサートを行なうことにいたしました。
当時を知る仙台フィル事務局員が、会場準備をしながら「ああ、いろいろ思い出しちゃうなあ…」と感慨深そうにしていました。あのときはこのお寺に避難者が何人か滞在していたそうです。
コンサート会場は建物の3階にあり、その下の階には復興コンサートの写真パネルを展示し、お寺のご意向で焼香台も設けました。ご来場の方には、演奏の前後に写真展をご覧いただき、これまでの活動を知っていただく場としました。
IMG_5051-本日の出演は仙台フィルメンバーによる弦楽四重奏(ヴァイオリン神谷未穂さんと小山あずささん、ヴィオラ御供和江さん、チェロ山本純さん)です。御供さんは岩沼市追悼式での献奏を終えて、大わらわで駆けつけました。
会場にはおよそ80名の市民がつどいました。その中には、最初の復興コンサートを聴いていたという方も何人かいらっしゃいました。
プログラムはバッハ『G線上のアリア』で始まりました。これは当初の復興コンサートで必ず最初に「献奏」という形で演奏されていた曲です。演奏し終わると、演奏家は立ち上がり黙祷を捧げました。
IMG_5088-そして、仙台フィルユニオンを代表してオーボエ奏者の西沢澄博さんが挨拶しました。この5年間のこと、心の復興を支えるという重要な役割を音楽が担っていること、そして、それに携わる者としての決意を熱く語りました。

IMG_5116-続いて、神谷さんが「復興コンサートであちこちに伺うと、“クラシックなんて初めて聞くよ”とか“バイオリンなんて初めて見たぁ”というおじいちゃんおばあちゃんがたくさんいました。だから、まずご挨拶がわりにこの曲を演奏するんです」と語り、エルガー『愛の挨拶』が演奏されました。
そして、避難所ではどんな曲を受け容れてもらえるかわからなかったのでありったけの楽譜をもって出掛けたことや、子供たちが喜ぶと大人たちも笑顔を見せるようになると気がついたので、それまで弾いたことのなかった子供向けの曲をレパートリーにしたことなど、さまざまなエピソードを話しました。
IMG_5160-第2ヴァイオリンの小山さんは仙台フィルに入団してまだ1年経っていない新人です。「震災の時、私は高校生で、何かしたかったけれど何もできなくて…」と当時の想いを話しました。その後、仙台フィルに入って初めて復興コンサートに行った石巻で見た風景に衝撃を受けたこと、そして石巻の人たちの明るさと温かさに触れて、むしろ元気をもらってきたことを語りました。

IMG_5239-ヴィオラの御供さんは復興コンサートを重ねるうちに、或るとき、お客さんに「悲しい曲ばかり聴くと、その重い気持ちを引きずったまま家に帰ることになる。明るい曲を聴きたい」と言われたエピソードを紹介しました。IMG_5279-
「だからそれ以来、私たちは少しでも気持ちが明るくなるような曲を演奏することにしたんです。演歌でも何でも」と言いました。
ここで演奏された曲はハーライン『星に願いを』です。弦の美しい調べが星空へ昇ってゆくようでした。
IMG_5307-プログラム最後の曲の前に、チェロの山本さんが「復興コンサートではみんなで一緒に大きな声で歌うのがお約束です。恥ずかしいなんて思っても、やってみると体が元気になるんです。いいですか、みなさん“大きな声で”歌ってくださいね!」と朗らかにお客さんを誘いました。IMG_5392-
そして、坂本九の大ヒットソング『上を向いて歩こう』が溌剌と演奏され、客席の歌声が重なって、会場全体が一つになりました。演奏後はお客さんも演奏者もともに拍手を贈り合いました。

IMG_5235-演奏家も関係者も口を揃えて語ったのは、
「5年の節目と言うが、むしろこれからが復興コンサートが必要とされるのではないか」ということでした。そこには「音楽が持つ力を信じてこれからもこの活動を続けていくつもりだ」という強い意志があります。そうして、復興コンサートは今日で通算555回目を迎えました。IMG_5129-

今日の仙台は冷え込んで、開演前は小雪が舞っていましたが、終演後は雲のすき間からきらめく星が見えました。
「この天気も、5年前とすっかり同じだな」
そんなことを誰かがつぶやいていました。

もう5年、まだ5年。
どう感じるかは人それぞれですが、これからも復興コンサートを続けていこうと決意を新たにした、寒い夜でした。
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