お知らせ
東日本大震災 5年のつどいにて
- 2016.4.9
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東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センターとは、被災各地で被災者が主体となって取り組んでいる復興へ向けたさまざまな活動をサポートする組織です。毎年1回開催される大会では、各地の被災者ならびに支援団体による被災地の現状報告が行なわれます。今日はその集いに併せて、復興コンサートをお届けしました。
「音楽の力を、生きる力に」とサブタイトルをつけ、これまで音楽家が続けてきた復興支援活動の一端をご紹介するとともに、各分野の最前線で復興へ向けた活動をしている方々にひとときの心の潤いと明日からの活力を感じていただく機会としました。会場にはおよそ100名の参加者があつまりました。
今日の出演はおなじみの杜の弦楽四重奏団のみなさん(ヴァイオリン叶千春さん&駒込綾さん、ヴィオラ 齋藤恭太さん、チェロ塚野淳一さん)です。復興コンサート出演が数多いこのチームに、復興コンサートの典型的なプログラムを紹介していただきました。
震災後すぐの頃は、はたしてどんな曲がふさわしいのか、どんな曲が喜ばれるのか、海を想起させる曲は避けるべきかなど、選曲に多くの逡巡や躊躇があったことを千春さんが語りました。
「言葉がないからこそ音楽そのものが伝わって、聴いた人がそれぞれの受け止めができるのがクラシックの良さだと思います」とモーツァルトやバッハの小品を演奏しました。
続いて、「弦楽四重奏ならではの曲を…」と演奏したのはハイドン『ひばり』第一楽章でした。高い空にひばりがさえずるのどかな光景が目に浮かぶようです。
復興コンサートで訪問する先には、音楽ホールに足を運ぶことのない人やクラシック音楽に縁のない人がたくさんいますが、演奏家のトークによってその人びとと音楽の距離はぐっとちぢまり、自然にすうっと聴いてくださることが多いようです。復興コンサートでは演奏家自身のお話しが重要な要素になっています。
「クラシックだけでなく、歌謡曲や童謡、ご当地の曲や民謡も演奏します。今日は宮城県の曲を弾きますね」と瀧廉太郎『荒城の月』と民謡『斉太郎節』が演奏されました。その土地に縁のある音楽を聞くと、お客さんはほっとして演奏家のことを身近に感じてくださる様子です。今日も同様で、斉太郎節の後には一段と大きな拍手が沸きました。
「ご当地の民謡などは楽譜がないことが多いのですが、私たちの場合は彼がアレンジして楽譜を作ってくれます」とチェロの塚野さんが紹介されると、どっと喝采が起こりました。それは「グッジョブ!」「いいぞ!」「お疲れ様!」と言っているような拍手でした。
また、「このようなご当地の曲を一緒に歌っていただくことがあるのですが、沿岸部の方に行くと特に、みなさんが大きな声で歌ってくださるので、むしろ私たちが元気をいただいて来ることのほうが多いんです」と千春さんが言うと、客席で大きくうなづいている方が何人かいました。きっと海辺の人なのかもしれません、「うん、わかるわかる」「海辺の人はそうだよね」と全身で共感しているようでした。
プログラムの最後は昭和のヒット曲、坂本九メドレーでした。『明日があるさ』にウキウキし、『見上げてごらん夜の星を』にしっとりと想いを馳せ、『上を向いて歩こう』には客席から自然と手拍子が湧いてきました。クラシックにも歌謡曲にも素敵な曲がいっぱいあります。ジャンルを超えて、敷居を越えて、音楽の楽しさや美しさをお客さんと共有するのが復興コンサートの醍醐味です。
お客さんの笑顔と熱い拍手にお応えして、アンコールに『星に願いを』が演奏されました。「またどこかで再会できますように、と願いを込めてこの曲を演奏しています」と千春さんが言いました。「もう5年」「まだ5年」と人によって感じ方はいろいろですが、復興の長い道のりの途中で出逢えた縁に感謝するとともに、もし次回会うときには少しでも今より良い状況になっていてほしい、しあわせになっていてほしいと思います。
被災地には医療、福祉、環境、教育、住宅、その他さまざまな局面で問題が山積しています。それに向き合う歩みの中に、ため息ではなく口ずさむ歌、その人に寄り添い励ます歌があればいいのになあと思います。またどこかでお会いすることもあるでしょう。お互いの分野で頑張っていきましょうね。