お知らせ

大和町五丁目町内会へ

2016.5.15

風薫る5月そのもの、さわやかに晴れ渡る美しい日となりました。市街中心部は青葉まつりでたいへんな賑わいですがその喧騒を離れて、今日は若林区の大和町五丁目町内会館にうかがいました。この町内会は夏祭りや運動会、炊き出し訓練など、普段から住民の交流と活動がさかんで結束力のあるところだそうです。昨年、この地域に新しく復興公営住宅が完成し、およそ100世帯が入居しました。町内会では、公営住宅のみなさんに早くこの地域に慣れてもらって、お互いに顔の見える関係づくりをしたいと考えています。まずはそのきっかけの一つとして復興コンサートを開催しようという運びになりました。
DSC_0783題して「5月たのしむコンサート」、出演は仙台フィルオーボエ奏者の鈴木繁さんとギタリスト佐藤正隆さんです。会場には40名を超える人が集まり、用意した席は満員となりました。お母さんやおばあちゃんに連れられて来た小さな子もいました。オープニングの『君をのせて』が始まると、子供たちは「あ、これしってる」と嬉しそうにしていました。
「仙台フィルと思ってクラシックを期待していらした方にはあいにくですが、今日は気軽に楽しめる曲を持ってきました」と、鈴木さん。『イパネマの娘』『コーヒー・ルンバ』などラテン系のポップスを中心としたプログラムです。きっと青春時代に流行していたのでしょうね、かかとや肩でリズムを刻んでいる人がたくさんいました。
DSC_0794鈴木さんも佐藤さんも、偶然にもこのあたりにご縁があるという話をし、お客さんはぐっと親近感が湧いていたようです。開演前は「生演奏なんて聞いたことないから…」と緊張気味だった町内会長さんもくつろいで演奏を楽しんでいました。DSC_0793
また、普段はオーケストラでオーボエを吹いている鈴木さんですが、今日はオカリナや鍵盤ハーモニカなども演奏しました。コールアングレやオーボエダモーレも紹介し、楽器の仕組みをわかりやすく解説しました。こめかみに血管が浮き出るような、ものすごい呼気の圧力とともに吹く様子を間の前で見て、お客さんは「大変なんだねえ」「おつかれさまです」と圧倒されていました。
プログラムの中盤で、「みなさんとこの歌をご一緒したいんです」と2人が弾き始めたのは『見上げてごらん夜の星を』でした。「今日はこれを手話でやってみましょう」と鈴木さんが一語ずつ手話を説明し、みなさんが真似をします。DSC_0790
手話の成り立ちに「あ、なるほどねえ」「うまいことできてるねえ」と感心しながら、ほとんどの方がすんなり覚えていました。男の人も恥ずかしがることなく楽しんでやっていましたよ。みなさんの歌う声の中で手がひらひらと舞う様子は、風にそよぐ草原のようでした。会場全体がほっこりと柔らかで温かな空気に包まれました。
DSC_0792最後の曲『エル・チョクロ』が終わると大きな拍手が沸き、「アンコール!」の掛け声が。中にはスタンディングオベーションをする方もいました。アンコールは「クラシック音楽の定義はいろいろあるんですが、これは日本のクラシックと言えるのではないかと思います」と、美空ひばり『川の流れのように』が演奏されました。目を閉じたり、小さく口ずさんだり、みなさんうっとりと聴いていました。自分の来し方行く末を思う歌ですね。
終演後に復興公営住宅の自治会長さんが挨拶なさいました。DSC_0799
「演奏会なんて敷居が高くて、初めは行くのやめようかなあと思ってたんですが、いやあ、実に楽しかったです。来て良かったです!」と楽しそうな様子で語りました。
喜んでいただけて私たちも嬉しいです。
或る若いママが「昔、先生に教わりました。チラシで見かけて絶対来ようと思ったんです」と声を掛け、鈴木さんは「あ!覚えてるよ!」と答え、思わぬ再会が果たされました。また、その後のお茶のみ会では佐藤さんのお父様をよく知る人びとがいらして「ああ、あの方の息子さんなの!」と話が弾んでいました。地元の演奏家ならではの会話ですね。DSC_0803
午後からの仕事を控え、慌ただしく会場を去る演奏家を見送りながら、或るおじいさんが「いがったねえ。今日はほんとにこれだねえ」と、さっき習った手話で「しあわせ」と示しました。まわりにいた人たちも笑顔で「んだねえ、これだねえ」と応えました。頭上には青い空が広がり、まばゆい陽光が降り注いでいました。