お知らせ
おしか清心苑「秋ほのぼのコンサート」へ
- 2016.9.17
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宮城県の最東部、太平洋に突き出ている牡鹿半島にある特別養護老人ホームおしか清心苑に伺いました。牡鹿半島は東日本大震災の震源に最も近い陸地と言われています。清心苑自体は高台にあるため津波の被害は免れましたが、内陸へ通じる道路が寸断され、半島が文字通りの孤島と化してしまったのです。半島の集落は壊滅状態になり、周囲の老人ホームも流されてしまったため、その利用者や家族が清心苑へ避難してきたそうです。清心苑の職員にも自宅を失った方が多くいました。停電し、ガソリンもなく、食料も充分ではないぎりぎりの状態で数週間を過ごすことになりましたが、職員さんの工夫と努力で震災後の辛い時期をなんとか乗り切ってきたというお話しでした。
あれから5年半が過ぎ、今日は本当にうららかな秋の日となりました。震災が夢であったかと思われるほどの穏やかさです。しかし、来る道々に見えたぐにゃぐにゃのガードレールや、礎石が残るばかりで荒れ果てた住宅地跡などにその痕跡はしっかりと刻まれているのでした。
今日は清心苑の敬老会です。年に一度の特別な日で、利用者のみなさんは正装し、一人ひとり記念写真を撮るのが習わしとなっているのだそうです。男性はネクタイを締め、女性はワンピースを召したりお化粧を施して、満面の笑顔で写真を撮っていました。
その特別な会のために、杜の弦楽四重奏団のみなさん(ヴァイオリン叶千春さん・駒込綾さん、ヴィオラ齋藤恭太さん、チェロ塚野淳一さん)にご登場願いました。千春さんと駒込さんはドレス姿で、齋藤さんと塚野さんは白いタキシード姿でさらに花を添えていただきました。
会場には利用者さんとご家族、職員さんたちおよそ160名が集まって賑々しい雰囲気です。
まずはモーツァルト『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』やヴィヴァルディ『春』などクラシックの名曲をお楽しみいただきました。
千春さんが客席の間を縫って演奏すると、興味を持ってじっと見つめる人や逆に恥ずかしがって目をそらす人がいました。たまにはこういう体験も新鮮でよいのではないでしょうか。
塚野さんの編曲による東北の民謡シリーズが演奏されると、どこからともなく歌声が聞こえてきました。いつも思いますが、おなじみのメロディというものは自然に声を引き出してくれるものなんですね。
『会津磐梯山』では演奏家自身も「はぁもっともだ~」と合いの手を入れます。ぐっと親近感が湧いてお客さんがほっとくつろいだように見えました。復興コンサートでは音楽家のこういう工夫がありがたいです。
昭和歌謡を中心とした曲名当てクイズでは「はーい!」と大きな声で手を挙げる人やいきなり曲名を叫ぶ人もいて、だいぶ盛り上がりました。海辺の町の人たちはノリがいいですね!
『リンゴの唄』や『北国の春』にも客席から手拍子と歌がすうっと湧き出てきて会場が弾むような空気に包まれました。演奏家もとても嬉しそうな笑顔で楽しそうです。車椅子の方の中にも一緒に口を動かしている人が何人もいました。
岡野貞一『故郷』がみなさんお好きだと事前に聞いていたので、そのリクエストにお応えして、演奏とともに歌っていただきました。口ずさむみなさんの心にはどのような風景が広がっているのでしょう。
予定のプログラムが終わると「いいぞ!アンコール3曲ぐらいやってくれ!」との声が飛んできました。
アンコールはBEGIN『海の声』でした。「この歌には、空の声、海の声、君の声という歌詞があります。この牡鹿にぴったりの曲だと思って用意してきました」と千春さんが言いました。
この施設には捕鯨や養殖業などかつて海の仕事に携わっていた人が多く、海とともに暮らしてきた人がほとんどです。昭和三陸津波、チリ地震津波、そして東日本大震災の津波と、何度も大変な目に遭ってきた地域だからこそ、これからはどうか海や空に祝福されて穏やかな日々が続きますようにと願わずにはいられません。
演奏家がおいとまするとき、施設長さんは「とても好評でした!ぜひまた来てくださいね」と熱いラブコールを送っていました。きっとまたうかがいますね。みなさんどうぞお元気にお過ごしください。