お知らせ
塩竈・清水沢東「はじめましてのコンサート」へ
- 2016.11.19
-
塩釜市内の仮設住宅や復興公営住宅を訪問し、お茶のみ会や歌の会など、住民が交流できる場を設けて被災者支援活動をするボランティアグループの「えぜるプロジェクト」からの依頼で、塩竈市営清水沢東住宅で復興コンサートを行なうこととなりました。塩竈市内を中心とするさまざまな地域からこの住宅に移転してきた人たちが顔を合わせ、知り合う初めの一歩として、ともに音楽を楽しみたいというご意向です。
集会所は会場のピカピカの新品で、まだ椅子も机もなく、窓にはカーテンすらない状況です。自治会ができないことには、こうした室内備品を整えることもできないのです。今日の椅子は支えあいサポートセンターから拝借しました。
あいにく本降りの雨で出足が心配されましたが、会場には22名の参加者が集まりました。
本日の出演はヴァイオリン叶千春さんとピアノ門脇麻美さんのデュオです。ドレス姿で登場した途端、「わぁ…」と客席からため息がきこえてきました。
オープニングは大河ドラマ「真田丸」のメインテーマです。ヴァイオリンとピアノの力強くドラマティックな調べがお客さんを圧倒します。終わった瞬間に「うわ~…」と感嘆の声が上がりました。最前列のご婦人が「頭の中にあの映像が浮かんできましたよ」と気さくに話しかけてくださったおかげで、「ありがとうございます!」と、演奏家も緊張が解けた様子でした。
プログラム前半は『愛の挨拶』『タイスの瞑想曲』など親しみやすいクラシックの名曲集が演奏されました。この木造りの会場は弦楽器との相性が抜群です。尖った天井の構造が響きをよりよくしてくれています。カーテンがないために壁や窓からの反射も多くて、からだ全身で響きを感じることができました。多くの方が楽器の音色と振動にうっとりと身を任せて聴き入っていました。
楽器紹介のコーナーで、千春さんはヴァイオリンの弦と弓の素材を説明しました。するとお客さんから「へええ、馬のしっぽってきれいだねえ」「初めて聞いたわぁ」とさまざまな反応がありました。その中で「腸ってホルモン?」との声には笑いが起きました。ヴァイオリンがすごく身近に感じられたのではないでしょうか。
後半はちょっとしたクイズなども交えながらの、日本の唱歌や洋楽ポップスを軸としたプログラムでした。
日本の四季をうたった唱歌のメドレーの中から、『故郷』をみなさんと一緒に歌いました。どの方もとても積極的に参加してくださって、生き生きとした歌声が会場中に満ち満ちました。これには演奏家もスタッフも驚きました。合唱団かと思われるほどです。
最前列にいらしたおばあさんがぽろぽろととめどなく零れ落ちる涙をハンカチで何度も拭きながら、それでも歌い続けていました。
続いて、事前の打ち合わせのときにリクエストのあったザ・カーペンターズのナンバーが演奏されました。多くの人が右に左に体を揺らしてリズムに乗って聞いています。外は冷たい雨しきりですが、この部屋の中にはとても温かで穏やかな時間が流れていました。
最後は秋の唱歌メドレーです。次々に出てくる曲に合わせて自然と歌声が湧いてきます。歌がお好きな方が多いように見受けられました。
会場の音響の良さに惚れた千春さんが「ここでまた演奏したいです」と言うと、「また来てください!」「ぜひ!」と大きな拍手が沸きました。住民代表の方から演奏家へ、感謝の花束が手渡されました。
演奏家が退場したあとに、或るご婦人が「はい!」と手を挙げました。そして立ち上がって、大きな声で言いました。
「私は桂島から来ました。見ず知らずの土地へ来て知り合いもいませんでしたが、この“終の棲家”でまさかこんなに愉しい思いができるとは思っていませんでした。ありがとうございます。これからルンルン気分で生活ができます。皆さんよろしくお願いします!」
そのひと声を機に、なんと全員の自己紹介が始まったのです。
「〇号棟〇号室の◇◇です」「〇〇号室の△△です。〇〇出身です。よろしくお願いします」と、支援スタッフを含め、その場にいた全員が挨拶をし、そのたびに温かな拍手が起きました。本当に「はじめましてのコンサート」のタイトル通りのことが起きています。不思議な魔法を見ている気分でした。
会場を出る人びとから「本当に良かった」「ありがとう!」「たのしかった」と握手を求められ、スタッフ冥利に尽きるなあと思いました。『故郷』のときに涙をこぼしていた方は「もう本当に感激しちゃって、いまも涙が止まらないの。うれしい」と笑い泣き状態になっていました。
「5年間仮設住宅に居たけど、音楽を聴かせてもらったのは今日が初めて。ありがとう」
ささやかなコンサートでしたが、聞いてくださった人びとがちょっと新鮮な気持ちになって、明日からの生活も明るくいこう!と思ってくださったなら本当に嬉しいです。
笑顔で帰ってゆくみなさんの姿をみながら、音楽の喜び、そして、ともにあることの喜びを共有できる場をこれからも届けにいこうと改めて思いました。