お知らせ
鳴瀬サロン「冬のコンサート」へ
- 2016.12.10
-
宮城県東松島市の鳴瀬地区で被災した方々が集う「鳴瀬サロン」は参加者の自律的な運営で行なわれ、現在も仙台市内にて毎月一回のペースで続いています。同郷の人びとが顔を合わせ、お互いの近況を語りあい、また、体操したり生活の役に立つ講座を開いたりしています。復興センターでは年に一度、このサロンに復興コンサートをお届けするのがここ数年の恒例となりました。
出演はソプラノ齋藤翠さん、バリトン千葉昌哉さん、フルート山田みづほさん、ピアノ高塚美奈子さんの4名です。とくに翠さんは東松島市の出身ということもあり、サロンの皆さんから「また聴きたいです」と熱烈なラブコールがありました。
曇天の土曜日の朝、会場にはおよそ25名の参加者が集まりました。仙台市内に新しく居を構えた人もいれば、電車やバスを乗り継いで市外からはるばるやって来た方もいます。
「最近体調があまりよくないんだけど、ここには絶対来ようと思って」「私も家族に無理言って来たのよ」「昨日からうきうきしちゃって」と、どの方もこのサロンを本当に心待ちにしていることが見て取れました。
復興公営住宅等で新しい生活を始めた方もまだ親しい仲間はつくれないでいることが多い様子です。ここに来れば何の気兼ねもなく、胸襟を開いて語り合うことができるので、みなさんのびのびと羽を伸ばしているように見えました。何気ない日常の出来事を、愚痴も含めて報告し合うのがまた愉しいんですね。コンサートは『雪の降る街を』で幕を開け、有名なオペラアリアやクラシック曲、懐かしの昭和歌謡や唱歌、子守唄などヴァラエティに富んだプログラムでした。
クラシック曲については演奏家それぞれがわかりやすく解説してくださったので、多くの方がその場面を想像しながら興味を持って聴いていらしたようです。
千葉さんも翠さんも楽しいトークでみなさんを笑わせながら進行するので、親戚の集まりのように温かな雰囲気でした。
実はコンサートが始まる前に「おれオペラとか全然わかんないからさあ…」と話していたおじさまがいらしたのですが、楽しそうに聞いている様子でほっとしました。高塚さんがピアノで独奏するショパン『子犬のワルツ』について、
「子犬が自分のしっぽを追いかけてくるくる回る様子を曲にしたと言われています」と説明すると、犬好きらしき方々から「そうそう、よくやるよね」「うん、やってる」と応えがありました。この曲がいっそう身近に感じられたことでしょう。
山田さんはラフマニノフ『ヴォカリーズ』をフルート独奏で演奏しました。
「この曲は声にならない思いを音が語ってくれ、そして同時に慰めてくれていると思います。私の大好きな曲です」との言葉通り、切々とした調べが身にしみるようでした。
『知床旅情』『冬景色』ではみなさん一緒に歌っていただきました。
歌うのがお好きな方が多いらしく、その様子に千葉さんが「お、イイ声ですねえ」とたじろぐ場面もありました。フルートによる子守唄メドレーでは篠笛を思わせる調べに目を閉じて聴き入る人が多くありました。故郷の風景を思い浮かべているのでしょうか。男性の方も体を揺らして聴いています。低くうたう声が自然と湧いてきて、しみじみと味わっている様子が伝わってきました。
最後は『メリー・ウィドウ・ワルツ』のしっとりと甘やかなハーモニーにみなさんうっとりしていました。
その後、演奏家からちょっとしたサプライズがありました。
参加者の中にちょうど今日がお誕生日という方がいらっしゃったので、『ハッピーバースデイ』をその方のお名前を織り込んで演奏しました。ほかの参加者からも大きな拍手が贈られて、その方はうれし涙をこぼしそうになっていました。おめでとうございます。
アンコールは『愛燦燦』です。客席のあちこちから鼻をすする音が聞えてきました。目頭を押さえている人もいました。これまでのいろいろを思い出させる歌ですね。この5年9か月を思い、こうしていま仲間と笑い合ったり語り合えたりできていることを考えると、「人生って不思議なものですね」という歌詞が特別な響きを持って聞こえてきます。
ふと見れば、窓の外は小雪が降りしきっていました。この雪の降る街のあちこちでみなさん暮らしていて、そこには悲しいことも嬉しいこともあって、でもこうして集えるひとときのある有り難さを思いました。
みなさんの暮らしが穏やかでありますように、と願わずにはいられませんでした。
また来年、お会いしましょうね。