お知らせ

駅なかメモリアルコンサートvol.8開催しました

2016.12.11

音楽の力による復興センター・東北では今年度、毎月11日に地下鉄東西線の
国際センター駅と荒井駅を会場にした「駅なかメモリアルコンサート」を企画制作しています。
東日本大震災から5年が経過した今だからこそ、市民のみなさんとともに、
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考えました。
(主催=仙台市)

東日本大震災から5年9か月が経過しました。JR常磐線の宮城県浜吉田から福島県相馬までの区間が昨日再開したとニュースが報じています。仙台市内のプレハブ仮設住宅は撤去作業が着々と進み、また別の見慣れない風景があちこちで生まれています。さまざまな面で新たな段階に入ったことを感じます。
今朝から鈍色の雲が垂れこめ、準備作業をしているうちに雪が降り始めました。この天候でお客さんの出足が心配されましたが、開場時刻のだいぶ前から列ができ、あっという間に用意した椅子が足りなくなるほどの来場者がありました。
本日の出演は仙台オペラ協会のソプラノ佐藤順子さんとヒューレット・マリさん、テノール佐藤淳一さん、ピアノ岩倉敦子さんの4名です。
img_2875まずはテノール独唱の武満徹『小さな空』が演奏されました。窓の外に舞う雪のひとひらのようなやさしい歌にスタッフながらちょっとしんみりしました。
続く順子さん独唱の『からたちの花』に聴き入る人々の、遠い昔を思い出すような表情が印象的でした。img_2883
コンサートの中盤でシューベルト、カッチーニ、グノーによる3つの『アヴェ・マリア』の競演がありました。こうして一度に聴き比べると、それぞれの違いがはっきりとわかって発見がありますね。ソリストそれぞれの祈りをこめた歌声が会場を包みました。
img_2925マリさんはご自身も好きだという『O Holy Night』を歌いました。澄んだ明るい声がどこまでも伸びてゆくようです。ここで、順子さんは震災当時のことを語りました。仙台市沿岸部にご親戚が多くいらして、しばしば訪れていた思い出の町が文字通り跡形もなく消え失せてしまったこと、それがいまだ腑に落ちず奇妙な感じがすることなどの話をうなずきながら聞くお客さんが多くいました。img_3039
そして『ウィーン我が夢の街』を歌いました。「歌詞ではウィーンと歌っていますが、みなさんそれぞれの町を思い浮かべて聞いてください」と言いました。朗々と響く最後のリフレインが終わった瞬間、熱い喝采がわっと沸きました。
img_3024マリさんは震災当時アメリカで学んでいたのですが、仙台市近郊に暮らすご親戚の安否がなかなか知れず、あの時期は心労を重ねたそうです。さきほど独唱したシューベルトの『音楽に寄す』の一節を朗読し、「音楽は本当に私の心の支えになってくれました」と語りました。遠く離れた人びともまた同じようにつらい思いをしましたよね。
また、淳一さんは震災の瞬間のことやその後のマラソンコンサートに参加したときのことを話しました。img_2939
「あのとき、『故郷』を歌うのがつらくて…どうしても歌えませんでしたね」
演奏家それぞれの実感がこもった話にお客さんはじっと耳を傾けていました。ご自分の体験を照らし合わせていたのかもしれません。そして淳一さんは「これから前向きに生きていくために新しい旅立ちを歌います」と『Con Te Partiro』を歌いました。声がダイレクトに聴く人の体を揺さぶります。ああ人間ってすごいなあと理屈なしに感服する思いでした。
img_7104アンコールは会場の皆さんと一緒に『きよしこの夜』を歌いました。およそ200名の大合唱が建物全体に響きました。ちょっと奇跡的と言いたいような、大聖堂とまごうほどの光景です。窓の外では雪が降りしきり、天からの恩寵かと思われました。名状しがたい感動がありました。img_2929
終演してお客さんが去る頃にはその雪もやんで、さっきの光景がうそのようです。人と音楽と雪が共演した一瞬の奇跡だったのかもしれませんね。ご来場の皆さん、ご出演の皆さんありがとうございました。