お知らせ
駅なかメモリアルコンサートvol.9開催しました
- 2017.1.11
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音楽の力による復興センター・東北では今年度、毎月11日に地下鉄東西線の
国際センター駅と荒井駅を会場にした「駅なかメモリアルコンサート」を企画制作しています。
東日本大震災から5年が経過した今だからこそ、市民のみなさんとともに、
音楽を通じてあの日に思いを馳せる場を設けたいと考えました。
(主催=仙台市)雲間から時折日差しが差し込むけれど、きーんとした風の冷たさにからだが思わず縮こまります。東日本大震災から5年10か月が経過した今日、駅なかメモリアルコンサートはせんだい3.11メモリアル交流館にて行われました。
今回もあっという間に満席となり、このコンサートをどうしても聴きたいという静かな熱気が客席から漂ってくるようでした。本日の出演は杜の弦楽四重奏団(ヴァイオリン叶千春さん・門脇和泉さん、ヴィオラ齋藤恭太さん、チェロ塚野淳一さん)です。
復興コンサートには本当に多くの回数ご参加いただいているみなさんです。今日のプログラムはこれまでの復興コンサートの中でとりわけ多く演奏してきた曲で構成したとのことでした。
オープニングはモーツァルト『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』第一楽章でした。よく知った曲ですが、この至近距離の生演奏で聴くとまたちがう感慨が湧きますね。音の振動が直接伝わってきて、音楽を文字通り「体感」できます。お客さんは流麗な調べに身を任せるようにしてうっとりと聴いていました。
震災当初、人びとの緊張しきった心をゆるめるにはこのような美しく明るい旋律が求められていた、と千春さんは語りました。
言葉のないクラシック音楽は人それぞれの聞き方ができるので、そこが特にあの時期には良かった、と塚野さんが語りました。
続いてバッハ『G線上のアリア』が演奏されると、あちこちからすすり泣く声が聞こえてきました。客席を見ると、こらえきれずに泣いている方が何人もいます。6年近くも経とうとする現在でも、こうして何かの拍子に堰を切ったように涙を流す人たちがいることに、言葉を失いました。しかし同時に、安心して泣ける場があることは悪くないことですよね。涙は心を軽くしてくれますから。このカルテットの持ち味のひとつに、楽器紹介や曲当てクイズなどをまじえたお客さんとの楽しいやりとりがあります。
楽器の解説に「へえ~」と感心する人あり、塚野さんのトークに爆笑する人あり。「ブラボー!」「ワンダフル!」と客席から声がかかります。
クイズに出題された『故郷』はみなさんに一緒に歌っていただきました。「この曲を演奏できるようになったのは最近のことです」と塚野さんが言いました。震災当初から数年はこの歌を聞くのがつらいという人が多かったので、演奏するのを憚っていた音楽家はたしかに多かったです。今は明るい気持ちで歌える人が増えた様子ですが、ここでもまたぽろぽろと涙をこぼす人の姿が多くありました。
泣いたり、笑ったり、歌ったりするうち、お客さんは音楽にすっかり魅了され、表情がいきいきとしてきたように見えました。その笑顔が演奏家を励まし、勇気づけます。文字通りの「交歓」を今日も実感することができました。
最後は会場一丸となって息のぴったり合った「アンコール!アンコール!」の掛け声が沸き起こったほどです。熱いご希望にお応えして『海のこえ』が演奏され、大喝采の中で終演となりました。
と、あるお客さんが感極まった様子で話しかけてきました。
「本当にありがとう!『G線上のアリア』はおとうさんと一緒によく聞いてたの。思い出すとつらいからこんなこと誰にも話さないでいたし、音楽も聞かないようにしてたの。でも、いまになってやっと音楽を聴きに行こうって気持ちになれたし、聴いたら“明日からまた頑張ろう”って気持ちになりました」
と、亡くなった旦那さんとの思い出を話してくださったのです。その泣き笑いの顔には何か吹っ切れたような、一種の清々しさがあったようにも感じられました。
時は確実に経過しています。生き残った人びとはどうにか苦労してあの経験と折り合いをつけながら毎日を一歩一歩あゆんでいます。その道のかたわらに咲く一輪の花のようなやさしさと美しさをもって、音楽が人に寄り添い、励ますものであってほしい、とあらためて思いました。