お知らせ

七ヶ浜町遠山地区へ

2017.2.18

晴れ渡る青空に吹く風は冷たく、『早春賦』の一節が思い起こされる今朝は、宮城県の東部にある七ケ浜町遠山地区へうかがいました。この地区の社会福祉協議会が主催するサロンへ「遠山に…春よ、こいこいコンサート」をお届けするためです。
会場はかつて地域の公民館でしたが震災で全壊し、復興庁の支援で「遠山避難所」として新たに建てられました。
また、七ヶ浜町にあった仮設住宅はこの3月ですべて解消されるそうで、復興公営住宅や防災集団移転地域へ住まいを移した人たちが新しいコミュニティをつくったり既存のコミュニティになじんでいくための工夫が必要とされる時期だそうです。
さて、今日の出演はジャスミン・トリオ(フルート櫻井希さん、クラリネット菊池澄枝さん、ピアノ鷲尾恵利子さん)です。
鮮やかな色のドレス姿で登場すると、客席から「うわぁ…」と一斉にため息が聞こえてきました。お客さんの期待が一気に高まったのがわかります。耳でも目でも楽しんでいただきたいという演奏家の心づかいが功を奏しました。
まずはご挨拶代わりにエルガー『愛の挨拶』が披露されました。瀟洒なデザインのこの建物は、天井が斜めになっていて、音響的にはとても都合の良い造りでした。音が会場のすみずみに広がって、どこに座っていても音がふわっと全身を包み込んでくれるような心地よさがありました。
前半はクラシック曲をメインとしたプログラムで、楽器の紹介を交えながら進みました。『トリッチトラッチポルカ』や『クラリネットポルカ』などは気分がうきうきして、春にぴったりですね。
鷲尾さんはクラシックの名曲をご自身でメドレーにし、『運命』『天国と地獄』『剣の舞』ほか、力強い速弾きでお客さんをあっと言わせました。

後半は日本のうたの特集です。櫻井さんが「日本の演歌にはこの楽器がぴったりなんですよ」と取り出したのはぴかぴかのアルトフルートでした。いつものフルートと比べるとその違いがよくわかります。大きいですねえ。美空ひばり『津軽のふるさと』ではちょっと低めの柔らかな音色がひばりさんの声のようにも聞こえました。
ジャスミン・トリオは復興コンサートに登場回数が多く、高齢者のお客さんとの交流も多いので、お年寄りに喜ばれるプログラムを開発してくださいます。今回の新曲は石川さゆりメドレーでした。『天城越え』『津軽海峡冬景色』などおなじみの演歌にみなさんほーっと聴き惚れていました。フルートもクラリネットもこぶしを回すように体を振って演奏しているのが、やっぱり日本人だなあと思いました。
お客さんの温かさに見守られて、名残惜しむ喝采と共に終演となり、その後は演奏家をまじえたお茶のみ会がありました。
あるご婦人が「こっち、こっち!ここに座って!」と嬉々として手招きし、「うちの孫にほんとそっくりだわ~」と演奏家に話しかけていました。ある人は「うちの娘と名前が一緒だ」とこれまた嬉しそうでした。
一方で、震災直後の様子を話してくださる方もあり、自衛隊が設営した仮設の入浴施設、通称「千人風呂」がどんなに有り難かったか、「女の人たちが髪を洗えてほんとに助かったんだ」と当時の様子を語っていました。
楽器の搬出をしていると、あるご婦人がわざわざやってきて「本当にすてきでした。舞踏会に来たみたいだったわ」と優しい笑顔でお言葉をかけてくださいました。その方の胸中に広がったであろう光景を想像すると、ああコンサートができてよかったなあとしみじみ思いました。「こういうの、なかなか聴けないからねぇ」ともおっしゃいました。
短い間ですが、華やかな特別な時間を過ごしていただけたようですね。私たちも心がほっこりしました。どうもありがとうございます。春遠からじ、みなさまどうぞお健やかにお過ごしくださいね。