お知らせ

石巻・吉野町「ほのぼのコンサート」へ

2017.4.9

石巻ツアー2日目の今朝は、北上川の向こう側の湊地区にある吉野町復興住宅へ伺いました。
ここにお住まいの高齢者による自主サークル「長福会」からのご依頼をいただき、コンサートをお届けに来た次第です。会場準備をしていると、集会場のすぐ裏手の崖をカモシカが下りてきて、目と鼻の先をてくてくと通り過ぎました。「あ!やっと見れた!」「カモシカも音楽聞きに来たんだべ」と自治会長さんが笑っていました。
昨日とは打って変って冷たい雨の降る朝でしたが、参加者は雨にも負けずいそいそとやって来ます。早々に集まってしまったので、予定時刻を早めての開演となりました。およそ30名の参加者が集まりました。
昨日に引き続き、出演はカルテット・フィデスのみなさん(ヴァイオリン松山古流さん、ヴァイオリン熊谷洋子さん、ヴィオラ御供和江さん、チェロ石井忠彦さん)です。
弦楽四重奏ならではのハーモニーをお楽しみいただこうとヴィヴァルディ『春』第一楽章が演奏されると、「うわ~これはいいねえ!」と会長さんが大感激していました。BGMなどで何度も聞いている曲かもしれませんが、目の前で生演奏されると全身で体感できて何十倍にも立体的かつ濃厚に感覚されることと思います。
みなさんちょっと前のめりになってじっと聴き入っています。昨日の新沼田第二復興住宅でも思ったのですが、今回のお客さんは音楽に正対しているとでも言いますか、真剣な面持ちで音楽に入り込んで聴いているのでした。なにか日常と違う時間がそこには流れているような感じを受けました。
もちろんここでもご一緒に歌うコーナーを設けています。演奏家が「ドレスじゃ気分が出ませんからね…」とはっぴ姿に着替えると「あらぁ、わざわざ…どうもありがとうございます」とお礼を言うおばさまがいたり、「どれ、オレが歌ってやっから」とノリノリのおじさまがいたりと、とても気さくな時間になりました。

『港町十三番地』を歌うみなさんの声はとても力強く、その声に圧倒された演奏家は「うれしい~!」と大よろこび。美空ひばりが20人くらいいるのではないかと思うぐらいに、くいっくいっとこぶしを回して歌っていました。
あまりに見事な歌いぶりに演奏家が「合唱団ですか!?」と驚いていましたが、あとで話を聞いたところ、毎月一回カラオケの日があって、4時間にわたって延々と歌をたのしんでいるのだそうです。「それでも時間が足りないぐらいなんだよ」とある参加者が笑っていました。なるほど、みなさんの元気のもとは歌うことなんですね。
演奏家が歌声に感激して、「みなさん、良かったらこれも歌ってください!」と瀧廉太郎『花』を急遽追加しました。お客さんも「わぁ!」とうれしそうに「春の~うららの~」と歌い始めました。滔々とした弦の調べに朗々とした歌声が乗って響きが混然一体となり会場の中に渦を巻くようです。音楽を通してそれぞれの歓びが交わされる、文字通りの交歓の光景が広がりました。
歌い終わって互いに拍手を贈り合います。この満ち足りた空気はいったい何なのでしょう。みなさんは演奏家と初対面なのにすごいなあと傍で見ていてつくづく感心しました。
タンゴ『ラ・クンパルシータ』が演奏されると、「あ!」と顔を見合わせてにっこりするおばさま多数。青春の一ページを飾る曲なのでしょうか、これまでにも増して目を輝かせて熱っぽく耳を傾けています。
終わって、銀髪のご婦人が「ああ、もう胸が燃えました…」とため息とともに感想を言っていました。音楽はこんなにも人々を生き生きとさせるスイッチなんですね。一つの魔法か奇跡みたいだなと思いました。

終演後は演奏家も皆さんと一緒に茶話会を楽しみました。興味津々で演奏家に質問をするおばさまたち、本当に明るくてお元気ですね。
ある人にコンサートの感想をうかがうと、「アヴェ・ヴェルム・コルプスが好きなの。ずっと歌ってたから」との答え。市民合唱団で40年も歌に励んでいたそうです。
この住宅に入居して2年が経ったというその方に「もう生活には慣れましたか?」と問うと、「慣れたって言うか…慣れていかなくちゃね。」とおっしゃいました。それまでのおしゃべりとは異なる、決然とした口調に一瞬はっとしました。それは、ご自身を奮い立たせるための、ご自身に言い聞かせるための言葉だったのかもしれません。その一言に込められた6年分の重みに返す言葉が見つかりませんでした。と、その方はまた笑顔になって「また来てね。今日は本当に良かったぁ。楽しかったよ」と言いました。
はい、きっとまた来ます。また一緒に“音楽”しましょう!