お知らせ
石巻・新沼田第一「あおぞらコンサート」へ
- 2017.4.9
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三陸道を仙台から石巻に向かうと、石巻河南インター近くの左右に、広大な新しい住宅地が見えてきます。震災後、防災集団移転地区として整備された地区です。今日は、向かって左手に、最初に見えてくる新沼田第一復興住宅集会所でのコンサートです。4棟の集合型公営住宅のほか、道路を挟んだ戸建て住宅にも、チラシを配布しました。
開演前にいらしたお客さんに話しを伺うと、入居してみなさん約1年半が経っているとのこと。元々住んでいた場所は、石巻市内の釜地区の方もいれば、女川や牡鹿、雄勝などの半島部の方、また内陸にある河南の方もいらっしゃいました。津波で家を失った方ばかりでなく、地震による地割れや建物の全壊で、移られた方もおり、本当にお一人おひとり境遇が異なることを改めて感じました。
雨も降ってきて、お客さんは少ないかな…と思っていると、開演直前にぽつりぽつりといらっしゃり、気が付けば用意した客席はほとんど埋まっていました。出演は、仙台フィルからヴァイオリン長谷川康さんと、フルート副首席奏者の芦澤曉男さん、そして石巻出身のピアニスト境美佳子さんです。
フルートとヴァイオリン、ピアノ(キーボード)によるトリオで、コンサートはおなじみの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」1楽章から始まりました。こちらの集会所の中で、クラシックのコンサートが行われるのは初めてとのこと。マイクを使わなくとも、充分な音量と響きがあることに、みなさん驚かれていたようです。
仙台のコミュニティFMで、レギュラー番組を持っていらっしゃる長谷川さんによる進行で、《フルートコーナー》へと続きます。まずは1曲お聴きいただけたら、と芦澤さんのフルートソロで「七つの子」を。変奏曲になっている「七つの子」はフルートの美しい音色も、また鮮やかな技巧も耳で楽しむことができ、懐かしい旋律がまた新鮮に聴こえました。
間には、フルートの音の鳴る仕組みを説明するのに、中身の入った栄養ドリンクが登場。(芦澤さんの十八番です!)少しずつ中身を飲みながら、音の高さが変わっていくのを聴いていただくと、会場の皆さんは何事が始まったのか?!と大笑い!その後、空になった瓶に、息を吹きこむ角度をほんの少し変化させるだけで「ラブミーテンダー」の一節を聴かせてくださいました。これには拍手喝采!この間も、司会役の長谷川さんと、マイペースに和ませてくださる芦澤さんとのやりとりもまた楽しく、会場はすぐにリラックスした雰囲気となりました。
続いての《バイオリンコーナー》では、長谷川さんによる「チャルダッシュ」から。自在に変化するテンポと、目の前で繰り広げられる超絶技巧に、皆さんすっかり釘づけでした。楽器紹介では、f字孔の隙間から、楽器の中にある魂柱(こんちゅう)を1列目のお客さんに実際に見ていただいたりと、小さな会場ならではのやりとりも。続いての曲は細川たかしさんの名曲「北酒場」。長谷川さんが中学生の頃から一番好きな曲だとか…会場のおじさま達が、とても良い声で歌ってくださいました。
《アンサンブルコーナー》に移り、石巻出身のピアノ奏者 境さんにも一言お話しをいただきました。震災の日は、日本製紙石巻工場の近くにありご実家に偶然いらしたそうです。避難して翌日の夕方家に戻ると、ピアノの脚まで水(津波)の上がった痕跡が。鍵盤をそっと押してみると「音が出た!」。もちろん現在も、このピアノを弾かれているそうです。すっかり震災前とは変わった新沼田地区に今日初めて足を運び、本当に驚かれたそう。「これからみなさんにとって、益々住みよい街になっていくことをお祈りしています」と話されました。
演奏は朝の連続ドラマ小説の主題歌や、クラシックの名曲、そして『となりのトトロ』から「さんぽ」などを。また最後には、フルート、ヴァイオリン、チェンバロのためにかかれたイベールの「二つの間奏曲」を演奏しました。聴き慣れない現代曲も、ここまでとはまた違った演奏者のみなさんの真剣な表情に、お客さんも惹き込まれていたようです。最後と言いつつ、みなさんと歌ってお別れで来たらと「四季メドレー」を。「花」や「夏の思い出」など懐かしい歌を、いくつも一緒に歌っていただきました。
時間もちょうどとなり、この辺りで…と思うと「アンコール!」の声が…みなさんにもご了承いただき、パッヘルベル「カノン」が最後に演奏されました。1時間と少しの時間でしたが、すっかり打ち解けた会場のみなさんに、長谷川さんの所属する2つのオーケストラ、仙台フィルと石巻市民交響楽団の違いなどもお話ししつつ、それぞれの今後の石巻での活動を宣伝したり…。最後の最後には、全員での記念写真撮影となりました。
片付けが終わるまで、すっかりお待たせしてしまった団地会文化部長のKさんに、帰りがけ感想を伺うと「…今までのイベントの中で、一番良かったなぁ…」と静かに、にこにこと。おばさま達からは「また来てね!」という声もいただき、再会を誓った帰り道。外に出ると雨が上がり、ようやく青空が見えていました。