お知らせ

カルテット・フィデスの気仙沼ツアー③

2017.5.9

気仙沼の仮設住宅や復興公営住宅で支援コーディネートをする村上充さん(ムラカミサポート)のご協力で、今月も2日間の復興コンサートツアーを行ないました。
出演は仙台フィルメンバーによる弦楽四重奏団カルテット・フィデス(ヴァイオリン松山古流さん、ヴァイオリン熊谷洋子さん、ヴィオラ御供和江さん、チェロ石井忠彦さん)です。

さわやかに晴れた今朝は幸町住宅へと向かいました。造成工事真っ最中で赤土の地面に真新しいアパートが唐突な印象で建っています。住宅の前には殺風景とも希望とも呼べそうな、ちょっと名状しがたい風景が広がっています。
およそ170戸の幸町住宅ではまだ自治体が立ち上がっていない状況で、自治会発足へ向けた住民同士の交流がまず必要とのことでした。そのお話しを受けて「幸町〈はじめまして〉の音楽会」を開催することにした次第です。
ぴかぴかの会場には24名の住民が集まりました。これまで気仙沼で行なってきた復興コンサートに来てくださった方々のお顔も見えて、「ああ、仮設住宅を出られたんだな」とほっとしました。

ちょっと敷居が高いかもしれないクラシック音楽や弦楽四重奏のことを説明するときに、進行役の御供さんはいつもわかりやすい例えを使います。楽器説明でヴィオラの役割を「いちごショートケーキのスポンジに挟まっている美味しいクリームです」と言うと、何人かのおじさまたちが「ほほう~」と頷いていました。
また、タンゴの名曲『ラ・クンパルシータ』では、今度はおばさま方が情熱的に「うんうんうんうん」と頷いて、ときめいてる様子がうかがえました。
アンダーソン『踊る仔猫』でヴァイオリンが猫の鳴き声を模したフレーズを披露すると、みなさん「あら~かわいいこと~」と愛おしげな様子で、さらに演奏家がネコ耳を装着すると「あら~!」とウケていました。喜んでいただけて何よりです。
モンティ『チャルダッシュ』では古流さんが子ども用の小さなヴァイオリンで速弾きし、客席はうわっ!とどよめきました。
多彩なプログラムと楽しいトークでいろいろな音楽をたっぷりと楽しんでいただけた様子で、お帰りになるみなさんの笑顔にほっとしました。
と、或るおじいさんが杖をつきながら半身を引きずるようにして演奏家のそばにやってきました。
「今日は『故郷』が聴きたかったんです。私の兄弟は福島にいます。もう故郷がなくなったんですよ。帰れないんですよ帰りたくても」
話すうちに気持ちが昂ってきたのでしょう、目から涙があふれんばかりになっていました。演奏家が「また来ますから。その時に『故郷』を演奏します。聴きに来てくださいね」と応えると、その方は精一杯の大きな声で「…ありがとう!」と叫ぶように言いました。ゆっくりと去ってゆくその後ろ姿を見ながら「またここに音楽を届けに来よう、来なければ」と思いました。