お知らせ

クレモナからの贈りもの ~石巻へ~

2016.3.26

IMG_9959s石巻の北上川河口の中州に石ノ森萬画館はあります。東日本大震災のときは津波が1階天井まで押寄せ、2年間の休館を余儀なくされました。
再開したのちは多くの来場者が訪れ、石巻の観光スポットとして賑わいを取り戻しています。IMG_9886s
今回ご縁があって、現在開催中の特別企画展「この男がジブリを支えた。近藤喜文展」に復興コンサートを行なうことになりました。
近藤さんが監督したアニメ映画『耳をすませば』にはヴァイオリン職人を目指す少年が登場します。彼はイタリアのクレモナにある学校へ留学することになるのですが、まさにそのイタリア国立クレモナ弦楽器製作学校から、東日本大震災の復興支援として2014年に計11挺の弦楽器が仙台市に寄贈されたのです。今回は、その贈られたヴィオラ4挺によるアンサンブル演奏を萬画館にお届けしたという次第です。
IMG_9894s出演は仙台フィルハーモニー管弦楽団ヴィオラ奏者の長谷川基さん、仙台ジュニアオーケストラの武澤智哉さんと加藤佑月さん、そしてジュニアオーケストラ卒団生の佐藤奏さんです。奇しくも、加藤さんと武澤さんは『耳をすませば』の主人公と同じ歳の中学3年生です。
会場となった1階の交流スペースの窓からはDSC_0760
陽光に水面をきらめかせる北上川が一望できます。川の向こうには建設工事中の復興公営住宅が大きくそびえています。

IMG_9910sヴィオラの音に誘われるようにして、たくさんのお客さんが足を止め、演奏に耳を傾けてくださいました。モーツァルト『アヴェ・ヴェルム・コルプス』、レハール『メリー・ウィドウ・ワルツ』、そして映画の主題歌である『カントリーロード』などが演奏されました。IMG_9935s
若き演奏者たちはとても緊張していた様子でしたが、それぞれ曲に込めた思いを語り、懸命に弾きました。技術的にはまだまだですが、初々しい彼らの姿を微笑ましく見守っていただきました。

萬画館では午前と午後の2回公演でしたが、その間を縫って、アイトピアホールにも伺いました。こちらではちょうど『耳をすませば』上映会が行われるのです。一般社団法人ISHINOMAKI2.0では毎月1回、「金曜映画館」と称して上映会を開催しています。DSC_0741
萬画館がある中州にはかつて岡田劇場という映画館が在ったのですが、津波ですべてを流されてしまいました。劇場はなくなっても、大正時代から石巻の文化を支えてきた誇りと気概を持って映写技師さんが現在もさまざまな場所で映写活動をしてします。今日も35㎜フィルム映写機が威風堂々とした風情で並んでいました。
ここでは上映前の短い時間に、石巻好文館高等学校音楽部の合唱とコラボレーションで『アヴェ・ヴェルム・コルプス』『カントリーロード』の2曲を演奏しました。
DSC_0753好文館高校音楽部にはこれまで仙台クラシックフェスティバル「街なかコンサート」に何度か出演していただいたことがありますが、今日ここで共演できるのは全くの偶然なのです。スタッフにとっても嬉しいおどろきでした。
弦の調べに乗せて、溌剌として透き通るようなハーモニーが会場に響きわたり、お客さんたちはじっと聴き入っていました。大人たちは思わず涙腺がゆるんでしまったかもしれませんね。DSC_0737

ちょっと大げさかもしれませんが、今日のコンサートはさまざまな人の思いと偶然が時空を超えて、この地に焦点を結んだのだと思います。
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長谷川さんは「クレモナから贈られた想いを音に変えて、たくさんの人に聴いていただくのが僕たちの使命だと思っています」と言いました。

緊張の3公演を終えて若き演奏者たちはだいぶ疲労したようでしたが、表情にはやり遂げた充実感が見えました。今日の経験をこれからの未来に活かしていってほしいと思います。