お知らせ

「クレモナからの贈りもの」2017年・夏

2017.8.3

イタリア国立クレモナ弦楽器製作学校から東日本大震災の復興支援として11挺の弦楽器が東北に贈られたのは2014年春のことでした。そのうち4挺のヴィオラが仙台ジュニアオーケストラに寄贈され、以来、ヴィオラパートのメンバー有志が折りにふれてその楽器を携え、復興コンサートを行なってきました。これまで仙台市内の仮設住宅石巻への訪問仙台クラシックフェスティバルでの演奏など、さまざまな場所へこの「クレモナからの贈りもの」の音色を届けました。
今日は宮城県名取市の高柳地区集会所に伺いました。この地区は津波で甚大は被害があった閖上地区にほど近い内陸部で、近年は戸建ての復興公営住宅が完成し、新しい町内会が動き出したところです。今日の会場となる集会所は今年の春にオープンしたばかりで、窓から見える緑の稲がすがすがしい気分にさせてくれます。
今回のコンサートは、高柳町内会の丹野会長さんと名取市サポートセンターどっと.なとりのご厚意で実現することができました。どうもありがとうございます。あいにくの小雨模様にもかかわらず、およそ30名の参加がありました。
本日の出演は仙台ジュニアオーケストラから加藤佑月さん(高2)、武澤智哉さん(高2)、篠﨑こころさん(中1)、手島柊子さん(中1)、そのOGで現在スイスに音楽留学中の大槻有希さん、そして彼らの指導にあたってきた仙台フィルハーモニー管弦楽団ヴィオラ奏者の長谷川基さんの合わせて6名のヴィオラアンサンブルです。
モーツァルト『アヴェ・ヴェルム・コルプス』にはじまり、四重奏、独奏、五重奏、六重奏と編成を変えながらクラシック曲やアニメ映画主題歌などを演奏しました。手元がちょっとおぼつかない新人もいれば、堂々とした演奏をする先輩もいます。そしてそれを見守りつつ、音で励まし、導く先生がいます。さまざまな年齢の演奏者がそれぞれ異なる旋律を弾いて一つの美しいハーモニーを作ろうとする様子は、まさに社会の縮図だなあと思いました。
若き音楽家たちの一所懸命な姿は大人たちの心を打ったようです。もしかすると孫のように思えたのかもしれませんね。弾く方も聴く方も音楽を通して真剣に向き合っていました。
シュターミッツ『2つのヴィオラのための二重奏曲』で師匠との共演を披露した大槻さんはとても落ち着いた確かな演奏ぶりでした。後輩たちにも良い刺激となったことでしょう。夏休みで留学先から帰省したところを基さんに声を掛けられ、今回参加することになったそうです。「このような機会を与えていただいたことに感謝しています」と挨拶しました。

ところで、ジュニアオーケストラは高校2年までという年齢制限があり、現在高2の加藤さんと武澤さんにとっては今年が最後の夏になります。
武澤さんは年間を通じて取り組んでいる課題曲、バッハ『無伴奏チェロ組曲第一番』よりプレリュードとサラバンドをソロ演奏しました。たった一人で、6分を超える時間と空間を背負いつつ演奏します。お客さんも彼のデビューとも言える一世一代の演奏の証人となるべく、息をひそめるように、あるいは呼吸を合わせるようにして聴き入っていました。
やがて武澤さんは見事に弾ききり、お客さんからの大きな喝采を浴びて安堵したような照れたような表情を見せました。その拍手は「いやぁたいしたもんだ」「兄ちゃん頑張れよ!」という声援のようにも聞こえます。この数年の成長ぶりが見て取れる演奏でした。
「この楽器を後輩たちが引き継いで、多くの人にこの音色を届けていって欲しいと思います」と彼は言いました。その大人びた様子に、震災後の時間の経過をしみじみと感じさせられました。
加藤さんはジュニアオーケストラでパートリーダーを務めているそうです。復興コンサートに参加した経験について「音楽を人に伝えることの楽しさや素晴らしさを学びました。演奏を聞いてくださった方の感想がとても励みになります」と語りました。将来音楽家を志望する彼女は何か大切な種のようなものを見つけたのかもしれません。
基さんは初めて復興コンサートに参加したときの思い出を話しました。この会場にほど近い名取市文化会館で演奏した2011年4月のことです。
道なき道を進むようにして会場に向かうと、道の両側のかつて田んぼだったところには漁船や自動販売機が転がり、瓦礫と呼ばれるものが堆積していて、言葉には表せない光景が広がっていたそうです。その話に多くの人が当時を思い出してうなづきながら耳を傾けていました。
プログラムの最後は全員演奏によるプッチーニ『誰も寝てはならぬ』でした。全員が心をこめて音を重ねます。流麗な旋律に導かれて輝くような高揚感が会場を包みました。若き演奏者たちに惜しみない拍手が送られ、コンサートは無事に終演となりました。

演奏のあとにはお茶のみ会が催され、演奏者もお客さんも入りまじっておしゃべりしました。なんだか夏休みの親戚の家みたいな風景ですね。
ひと夏ごとに若者たちはめきめきと成長してゆきます。高柳のみなさん、今日はお立ち会いいただきましてありがとうございました。そして出演者のみなさん、心のこもった演奏をありがとうございました。